AI時代に事務所の手元で管理すべきデータ
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AIを使う事務所ほど、依頼者・相手方、事件、期日、入出金、勤怠という基本台帳は、事務所の手元で管理しておくのが堅実です。AIに渡してよい情報と渡さない情報を分けるには、手元にどんなデータがあるかを把握している必要があります。台帳が整っていれば、AIに渡す部分だけを取り出す作業も楽になります。
AI活用
手元で管理するデータ
AIに渡す前に、事務所の台帳を整える
AIに渡す前に、法律上の線引きを確かめる
弁護士法23条は、弁護士または弁護士であった者に、職務上知り得た秘密を保持する義務を課しています。職務基本規程23条は、依頼者について職務上知り得た秘密を、正当な理由なく他に漏らし、または利用してはならないと定めます。弁護士法23条が守る秘密は、職務上知り得た秘密であって、依頼者以外の人についての情報にも及びます。AIサービスに事件の情報を入力することは、この「漏らす」「利用する」に触れうる行為です。
個人情報保護法も関係します。弁護士も例外ではありません。同法16条2項は、個人情報取扱事業者から除かれる者を国の機関、地方公共団体、独立行政法人等、地方独立行政法人の4類型に限っていて、弁護士や法律事務所は含まれません。依頼者名簿や事件管理システムのように、氏名などで検索できるよう体系化した個人情報の集合物を事業に使っていれば、個人情報取扱事業者にあたります。個々の事務所が当たるかは、保有状況しだいです。
個人情報保護委員会は2023年6月2日の注意喚起で、個人データを含むプロンプトを本人の同意なく入力し、その個人データが応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合は、同法の規定に違反する可能性があるとしました。同委員会のリーフレットは、提供者が入力情報を自社AIの学習データに使う場合、個人データの入力は利用者から提供者への第三者提供にあたると説明しています。個人データの第三者提供は、同法27条により原則として事前の本人同意が必要です。入力してよい情報の具体的な分け方は生成AIに入力してよい情報、いけない情報で扱います。
図解 2
AIに渡す前に確かめる法令・規程
- 弁護士法23条・規程23条の守秘義務
- 個人情報保護法27条の第三者提供
- 17条の利用目的の範囲内か
- 提供事業者の規約と学習への利用
- AI推進法は守秘義務を定め直さない
手元に置く基本台帳は、5種類に絞れる
AIに渡すかどうかを決める前に、事務所にどんなデータがあるかを数えます。まず棚卸しです。小さな事務所の台帳は、おおむね次の5種類に整理できます。
- 依頼者・相手方・関係者の名簿(氏名、住所、連絡先)
- 事件の台帳(事件名、裁判所、担当者、状態)
- 期日と期限の予定
- 経費・報酬・入金・預り金の記録
- 事務員の勤怠(出退勤、時間外、有給)
5種類に共通点があります。事務所が日々更新し、後から説明を求められる記録だということです。相手方の名簿は利益相反の確認に使い、預り金の記録は依頼者への清算の根拠になり、勤怠は賃金計算の基礎になります。いずれも、サービスの仕様変更や提供終了に左右されない場所に、事務所自身の管理下で持っておきたいデータです。AIの利用を始めるかどうかにかかわらず、事務所が責任をもって持つ記録の範囲を、先に決めておく意味はここにあります。
A法律事務所を例にします。弁護士の法律太郎さんが、依頼者Cさんの離婚事件の準備書面について、AIにたたき台を作らせるとします。このとき台帳が手元にあれば、AIに渡す候補は台帳から選べ、渡さないものは台帳に残ります。
図解 3
手元に置く基本台帳の5種類
台帳が整っていると、AIに渡す部分だけを取り出しやすい
例に戻ります。争点の整理と書面の構成を考えさせたいだけなら、渡す情報は事件の種類、争点の要旨、期日の日付くらいで足ります。住所、電話番号、生年月日、口座といった特定の個人に結びつく項目は、台帳に残したままで済みます。欄が項目ごとに分かれた台帳なら、この切り分けは短い作業で終わります。
反対に、事件の経過が1つのメモ欄や1本のメールスレッドにまとまっていると、どこまでが渡してよい部分かを読み解く作業から始めなければなりません。切り分けに手間がかかれば、面倒になって記録をそのまま貼り付けてしまう危険が高まります。そこが落とし穴です。
渡す前の手順は、次のとおりです。まず、AIに何をさせたいかを決めます。次に、台帳からその目的に必要な項目だけを取り出します。氏名や連絡先など個人を特定する項目は台帳に残します。そのうえで、利用するサービスの規約で入力データが学習に使われるかを確認します。最後に、何を渡したかを案件のメモに残します。
依頼者から取得した個人情報を、取得した目的の範囲で使っているかも確かめる点です。個人情報保護法17条は、利用目的をできる限り特定することを求め、変更する場合も変更前と関連性を有すると合理的に認められる範囲を超えてはならないとしています。
図解 4
AIに渡す前の手順
法制度は動いている。押さえておくのは2つ
1つは、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI推進法)です。令和7年法律第53号で、2025年6月4日に公布され、2025年9月1日に全面施行されました。目的は研究開発と活用の推進です。罰則を定める章はありません。事業者に直接の義務を課す条文も、活用事業者に国や自治体の施策への協力を求める7条くらいです。3条4項の基本理念は、AIが不正な目的や不適切な方法で使われると、犯罪への利用、個人情報の漏えい、著作権の侵害を助長するおそれがあるため、透明性の確保など必要な施策を講じるべきだとします。この法律が弁護士の守秘義務や個人情報保護法の義務を直接定め直すものではないので、前節の線引きはそのまま残ります。
もう1つは個人情報保護法の改正です。2026年7月17日に改正法が公布され、施行は2026年7月17日、2027年1月17日、2028年7月16日と段階的に進みます。本稿の条文は現行法です。16条や27条、28条のように改正される条文もあり、条番号は同じでも、中身は施行の時期で変わります。事務所のルールは、施行のたびに条文を確かめて見直します。
図解 5
Atriumのデータ保存
| 観点 | Atriumの考え方 | 事務所が決めること |
|---|---|---|
| 保存先 | 事務所内の共有フォルダ | どのフォルダやストレージにするか |
| アクセス権限 | WindowsとMacのフォルダ権限をそのまま使う | 誰にどの権限を与えるか |
| バックアップ | 方法と保管期間は事務所の方針 | 方法・期間・確認する担当 |
| アプリを削除したとき | 共有フォルダのデータは残る | データの所在を確認しておく |
手元の台帳を持つ道具として、Atriumの保存の考え方
Atrium Legalは、MacとWindowsのパソコンで使うデスクトップアプリです。データは事務所内の共有フォルダに保存し、販売元のサーバーなど外部には預けません。外部クラウドへの送信もなく、専用サーバーも不要です。共有フォルダには、OneDrive、Dropbox、Google Driveの共有フォルダやファイルサーバーを使えます。WindowsとMacのフォルダのアクセス権限をそのまま使い、バックアップの方法と保管期間は事務所の方針で選びます。アプリを削除しても、共有フォルダのデータは残ります。クラウドストレージを共有フォルダに選んだ場合は、そのサービスの設定や規約を確かめる作業が事務所に残ります。置き場所ごとの注意点は、別のコラム「依頼者情報をどこに置くか」でも取り上げています。
先ほどの5種類のうち、依頼者・相手方の照合は利益相反チェックシステム、事件・期日・入出金は案件管理ツール、勤怠は勤怠管理が受け持ちます。AtriumにAI機能はありません。事務所の台帳を手元に整えることと、AIを使うかどうかは別の判断です。ただ、台帳が整っていれば、AIを使うと決めたときも、渡す情報を選ぶ作業は難しくなりません。データの保存について詳しくはセキュリティの考え方に、機能と価格は商品ページにあります。

この記事の監修者
弁護士 横田 秀俊
福井弁護士会所属/弁護士法人横田秀俊法律事務所
Atrium Legalは、弁護士 横田秀俊の監修のもとで設計・開発されています。法律事務所の現場で必要とされる機能と操作感を確かめながら、弁護士と事務スタッフの双方が使いやすいツールを目指しています。監修について
※ 弁護士法人横田秀俊法律事務所と、Atrium Legalの販売元(株式会社HMコンサルティング)は別の法人です。
参考にした法令・資料
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この記事は、2026年10月時点の法令・公表資料をもとにした一般的な解説です。個別の事案の判断は、事案の内容に応じて行ってください。