弁護士が独立するとき、最初に決める7つのこと
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独立前に決めておきたいのは、事務所の場所と形態、取扱分野と相談の受け方、報酬と委任契約書の書式、預り金の口座、相談受付と利益相反チェックの手順、事務員の雇用、業務ツールとデータの置き場所の7つです。どれも後回しにすると、最初の依頼者を待たせたり、書式や台帳をあとから作り直したりする手間になって返ってきます。項目ごとに、決める内容と、先送りしたときの困りごとを書きます。
独立開業
独立前に決める7つのこと
決める内容と、後回しにしたときの困りごと
事務所の場所と看板は、弁護士会への届出と広告のルールから決める
1つ目 事務所の場所と形態
弁護士の事務所は法律事務所と称し、所属弁護士会の地域内に設けなければなりません(弁護士法20条1項・2項)。2つ以上の法律事務所は設けられませんが、他の弁護士の法律事務所で執務することは妨げられません(同条3項)。事務所を設けたり移転したりしたときは、直ちに所属弁護士会と日弁連へ届け出ます(21条)。
自宅、賃貸、他の弁護士との共同のどれにするかは、立地や費用に加えて、依頼者の記録をどこに置き、誰が出入りできるかまで含めて考えます。シェアオフィスなどで登録したい場合は、契約の前に所属予定の弁護士会へ届出の条件を確認しておくと安心です。契約してから条件に合わないと分かると、解約や移転の費用がかかります。
2つ目 取扱分野と相談の受け方
分野を絞るのか、民事全般で始めるのか。相談は予約制にするのか、電話やメール、オンラインのどれで受けるのか。相談時間と料金の定め方もここで決めます。看板となるホームページに何を書くかは、日弁連の業務広告規程の制限を受けます。事実に合致しない広告や誇大な広告、他の弁護士との比較広告は禁止されており(3条)、訴訟の勝訴率や過去に取り扱った事件は、条文所定の例外を除いて表示できません(4条)。広告には弁護士の氏名と所属弁護士会を表示し(9条)、広告物や広告方法の記録は、広告が終わってから3年間保存します(11条)。公開後に作り直すより、公開前に規程を読んで文面を作るほうが手戻りは小さくなります。
広告規程の改正点と、表示と実態を合わせる作業については、監修者の事務所のコラム『「24時間365日対応」と書く前に』で取り上げています。
図解 2
開業前に決める7項目
- 事務所の場所と形態を決めて届け出る
- 取扱分野と相談の受け方を決める
- 報酬基準と委任契約書の書式を作る
- 預り金の口座と記録の方法を決める
- 相談受付と利益相反チェックの手順
- 事務員を雇うか、雇うなら記録の方法
- 業務ツールとデータの置き場所
報酬の書式と預り金の口座は、最初の依頼を受ける前に用意する
3つ目 報酬基準と委任契約書の書式
職務基本規程は、経済的利益や事案の難易、時間と労力に照らして、適正かつ妥当な報酬を提示することを求めています(24条)。受任するときは、事件の見通し、処理の方法、報酬と費用を説明し(29条1項)、報酬に関する事項を含む委任契約書を作成します(30条1項)。法律相談、簡易な書面の作成、顧問契約など継続的な契約に基づく事件は、委任契約書を要しないとされています(同条2項)。
報酬基準の組み立て方は、日弁連の「弁護士の報酬に関する規程」で本文を確認してください。書式が決まっていないと、初回の相談で金額を口頭で伝え、契約書があとづけになりがちです。
4つ目 預り金の口座と記録
事件で依頼者や相手方から金員を預かったときは、自己の金員と区別し、預り金であることが明確になる方法で保管して、その状況を記録します(職務基本規程38条)。日弁連には「預り金等の取扱いに関する規程」があり、2025年6月13日の定期総会で一部改正が議決されました。会長挨拶では、預り金口座名義の明確化や弁護士会の監督権限の強化が盛り込まれると説明されています。口座の作り方や記録の細目は、現行の条文を日弁連の原文で確かめてから決めてください。
このほか、依頼者の口座を管理したり、一定額以上の資産を預かったりする場合などには、日弁連の規程にもとづく本人特定事項の確認が必要になり、確認記録は終了後5年間保存します。最初の預り金が入ってから口座や記録簿を考えていると、混同を避ける仕組みが間に合いません。
預り金の処理を先送りして懲戒に至った事例は、監修者の事務所のコラム「預り金を『あとで処理』と先送りした先にあるもの」で詳しく扱っています。
図解 3
最初の依頼までに整える流れ
相談の予約を受けた時点で、相手方の名前を聞いて照合する
5つ目 相談受付と利益相反チェックの手順
独立直後は件数が少なく、頭の中で足りると感じやすい時期です。しかし、弁護士法25条1号・2号と職務基本規程27条1号・2号は、相手方の協議を受けた事件を対象にしています。受任に至らなかった相談でも、協議の内容や程度によっては、あとで反対側の依頼を受けられなくなりえます。相談を聞いてしまってから相手方との関係が分かると、断るにしても、相談者に不利益が生じます。
決めておくのは、予約の電話やフォームで聞く項目(相談者名、相手方名、事件の種類)、照合する台帳、結果を誰が判断するかの3点です。聞き取りと入力は事務員に任せられても、受任してよいかの判断は弁護士が行います。
記憶や手作業の名簿だけで照合を続ける危うさは、監修者の事務所のコラム「『たぶん大丈夫』が一番危ない」で詳しく書いています。
Atrium Legalの利益相反チェックシステムは、新規相談のときに依頼者・相手方・関係者の氏名、住所、電話番号を入力すると、過去の案件データやブラックリストと照合し、「問題なし」「要確認」「危険」の3段階で表示します。チェックが済めば、そのまま案件登録へ進めます。
事務員を雇うなら、給料の前に労働時間の記録方法を決める
6つ目 事務員を雇うか、雇うなら労働条件と勤怠
一人で電話、郵便、期日管理、経理までこなす方法もあります。事務員を雇うと、事務所は使用者になります。勤務時間、休日、残業の扱い、休暇の運用を採用の前に整理し、労働時間をどう記録するかを決めておきます。法令上の細目は、社会保険労務士や労働局に相談して確認する領域なので、ここでは扱いません。
弁護士には、事務職員が違法もしくは不当な行為をしたり、事務所の業務で知った秘密を漏らしたり利用したりしないよう、指導と監督をする責任があります(職務基本規程19条)。入所時の説明、データにアクセスできる範囲の線引き、退職時の取扱いまで、最初に決めておきます。雇用の準備は事務員を初めて雇う前に整える勤怠と労務のしくみで順に書いています。
労働時間の記録を雇ってから考え始めると、記録のない期間ができます。あとから再現するのは難しい作業です。
図解 4
後回しにすると困ること
業務ツールとデータの置き場所は、最初の1件より前に決める
7つ目 業務ツールとデータの置き場所
事件記録を保管したり廃棄したりするとき、弁護士は秘密とプライバシーに関する情報が漏れないよう注意しなければなりません(職務基本規程18条)。保管の期間や方法は条文に書かれていないので、事務所として決める必要があります。データをパソコン本体に置くのか、所内の共有フォルダに置くのか、クラウドに置くのか。バックアップは誰がいつ取るのか。パソコン本体だけに置くと、端末の故障や紛失がそのまま記録の喪失になり、事務員と同じ台帳を使うこともできません。共有フォルダなら複数のパソコンで同じデータを扱え、バックアップも共有フォルダを対象に考えられます。これを決めないまま始めると、依頼者が増えた段階で台帳を移し替えることになり、二重入力と転記ミスが起きます。
Atrium Legalは、利益相反チェック、案件管理、勤怠管理の3つを1つのアプリにまとめた、MacとWindows用のデスクトップアプリです。データは事務所内の共有フォルダに保存し、販売元のサーバーなど外部には預けません。共有フォルダにはOneDrive、Dropbox、Google Driveの共有フォルダやファイルサーバーを使え、アクセス権限はWindowsやMacのフォルダの権限をそのまま使います。バックアップの方法と保管期間は、事務所の方針で選べます。スマートフォンとタブレットには対応していません。
図解 5
データの置き場所で比べる
| 観点 | パソコン本体だけ | 事務所の共有フォルダ |
|---|---|---|
| 複数人での利用 | 事務員と同じ台帳を使えない | 複数のパソコンで同じデータを扱える |
| 端末の故障・紛失 | そのまま記録の喪失になる | バックアップを共有フォルダ単位で考えられる |
7つのうち、事務所の場所、広告、報酬、預り金は、届出や規程を読んで書式と口座を整える作業です。相談受付の手順、労働時間の記録、データの置き場所は開業の日から回り始める運用なので、台帳と記録の置き場所を最初に一つに定めておくと、あとからの作り直しが減ります。Atrium Legalの機能は機能の紹介ページに、製品の概要は商品ページにまとめています。
この記事の監修者
弁護士 横田 秀俊
福井弁護士会所属/弁護士法人横田秀俊法律事務所
Atrium Legalは、弁護士 横田秀俊の監修のもとで設計・開発されています。法律事務所の現場で必要とされる機能と操作感を確かめながら、弁護士と事務スタッフの双方が使いやすいツールを目指しています。監修について
※ 弁護士法人横田秀俊法律事務所と、Atrium Legalの販売元(株式会社HMコンサルティング)は別の法人です。
参考にした法令・資料
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この記事は、2026年10月時点の法令・公表資料をもとにした一般的な解説です。個別の事案の判断は、事案の内容に応じて行ってください。